4

バー:アイスバーグ
それはペンギンが経営する系列店の中で比較的リーズナブルに飲める店である。(本店は言うまでもなく ドレスコードのいるとても敷居の高い店である)
オズワルド・コブルポットは店の前で車を止めさせた 。本店ならばともかく 末端の店の連中ときたら自分がいなければ 気を抜いて 経営が全くなっていないということになりかねない。
彼は鋭い目を光らせながら店の中に入って行った。

店の中で見慣れた3人組の姿を見つける。
キャットウーマン 、ハーレイクイン、 ポイズン・アイビー の3人である。
「だから~いいの、私は。プリンちゃんが幸せだったらそれでいいんだから~ ヒック。 …それに~最近、表情が穏やかで優しいの。 もうかわいい~ プリンちゃん 、すごく可愛いんだから♡」
完全に出来上がってしまっているハーレイクインを見て セリーナはため息をついた。
「…付き合ってたのもう10年以上前じゃない? ちょっと信じられないんだけど…まだ好きなの?」
「好きよ。大好き。もう愛してるんだから。私の運命の人はプリンちゃんなんだもん 。だからね~プリンちゃんには幸せになってほしいの ~。プリンちゃんが愛する人と幸せになってくれたら、私もハッピー なんだもん。 私の愛する人はプリンちゃんで~プリンちゃんの愛する人は私じゃなかったってだけのことよ 。 プリンちゃんがコウモリのこと愛してるのは昔っからだもん初めて会った時からだもん 。いいんだから~愛する人が幸せで笑顔でハッピーでいてくれたら、 こんな最高な事ってないもん! 私とプリンちゃんの関係は患者と主治医それでいいもん!!」
隣に座っているアイビーは 完全に目が座っている。
「こんなけなげな ハーレイ 悲しませてあんな男のどこがいいのやら。 大丈夫よ、私がついてるからね♡ 」
「ありがとうレッド大好き ♡」
ハグし合う酔っ払い二人を見ている呆れ顔のセリーナ。
「本当あいつのどこがいいわけ」
そう言うとハーレイは目をキラキラさせてセリーナの方を向いた。 よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの表情をして 。
「プリンちゃんはね、プリンちゃんは ~繊細な人で エレガントでおしゃれで、 楽しくてウィットに富んでて ~ すごくすごく 賢くって 知性に溢れてて。笑顔が可愛いくって、でもちゃんと男性的で強くってかっこよくって!! ハンサムで すらりとした手足が 色っぽくて セクシーで♡ それから想像力が豊かな人で 、なんでもできる行動力のあるすごい人で~ それから~~… 」
「…もういい大体わかった」
あいつにもいいところ少しはあったのね…セリーナは内心毒づいた。
「ハーレイなんて健気!」
そう言ってアイビーは抱きついた 。
「そういえばセリーナはあのコウモリのことどう思ってるわけ?くっついたり別れたり 散々してきたけど 、もしかして今も好きだったりする ?」
アイビー にそう振られ セリーナはグラスを傾けた。
「そんなわけないじゃない 。大体最後に付き合ってたのってもう何年前よ」
「まあ普通は別れたらそうよね。 それにあいつプレイボーイだっけ。 しょっちゅう女性と付き合っては別れて 遊び人の男って嫌よね 」
アイビーはその整った顔に嫌悪感をにじませた。
「うーん、それはちょっと違うんだけど。 遊び人というよりはすぐ女に振られるのよあいつ。 バットマンであることを隠して女と付き合うじゃない?怪我をしたり、いなくなったり、嘘をつかれてるって普通の女だってすぐに気がつくわよ。 それにあの憎悪に満ちた目つき。 何かわからなくてもすぐに異様さに気がついて 普通はドン引きするわよ。 それで怖くなってすぐに逃げられるって訳 」
「狂人の相手は狂人じゃなきゃ無理ってことね」
「そういうことよね。 でもあいつの狂気は、私だって手に負えないわよ。時々、どうにもならないぐらい狂ってる …って思える時があって。 私だけじゃないあいつの家族だって、大概振り回されてるわよ。 家族じゃなきゃとてもじゃないけど、手に負えない。 本当にそういうことよくあったんだから… あいつとの関係は色々ありすぎて距離が近くなりすぎてなんだかもう兄弟みたいになっちゃったのよね。手のかかる…兄?みたいな」
「あーなるほどね」
手のかかる兄弟、なるほど確かにその表現はしっくりくるとアイビーは思った。

「う"ーっ… 気持ち悪い吐く…」
隣にいたハーレイクインが口元を押さえる。
「ちょっとハーレイしっかりして」
「トイレなら右奥突き当たりだ 」
オズワルドは3人に声をかけた。
アイビーはハーレイを連れ 席を立った。
「あら、オズワルド。 商談でカナダに行ってたんじゃなかったかしら?」
「いつまでも自分の店を空けられんからな。それよりもあの二人飲み過ぎだろう」
「わかってるわ送ってく。じゃあね、ごきげんよう」
女子3人組はそう言って店を後にして行った。

騒がしい三人組を見送って、 厨房の中とスタッフの行動をチェックした後、 入れ替わるように新たに客が二人入ってきた。
バットマンことブルース・ウェインとジョーカー
先ほどの3人が話していた人物である 。
「ようオジー帰ってたのか! 」
「まあな」
「で、俺へのお土産は」
「あるかバカ! 仕事で行ってきたんだぞ」
へへへっと嬉しそうにジョーカーが笑う。
昔からそうだったが(精神が不安定な時を除いて)ペンギンとジョーカーは 基本的には仲がいい。
ブルースとジョーカーは カウンター席に座って 天ぷらの盛り合わせ と日本酒を注文する 。
「なぁオジー、なんでソルトが5種類もあるんだ? ピンクのと緑のと黄色いのとあとの二つはどう違うんだ?」
「色がついてる塩は フレーバーが違うんだよ。 ピンクのものは梅塩、 黄色のものは ゆず塩、 柑橘類の一種だ。 あと緑色のものは抹茶塩、お茶のフレーバーソルトだ。 後は粗塩、非常に大きな結晶化された塩と、もう一つは雪塩、非常に目の細かい結晶の塩だ。 この二つは口当たりが違うんだ。かけてみればわかる」
「ふーん、あ…ほんとだ」
食事を楽しんでいる友人(そう言っても差し支えないだろう)の顔を見てオズワルドはどこかしらほっとしていた。
全く、こいつには昔から散々迷惑をかけられたと言う思いがある。
血まみれで店に飛び込んでくるのは日常茶飯時で(その度に闇医者を呼んでやった)、 大事な調度品を壊されたり、店を全壊にさせられたり、さらには死にかけたりすることが何度あったか。
今のように落ち着いているのは、こいつにとっても他の周りの者達にとっても良いことだろう。
「あれ、オジーもう行くのか?」
「本店に戻らなきゃならん。じゃあな、ごゆっくり」

そう言ってオズワルドは店を後にしたのであった。


end

  • Gallery