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1 ジャスティスリーグにて

「「「婚約おめでとう!!!!」」」
クラッカーの弾ける音がする。
このやり取り今日でもう何回目だろうか?
ブルースとジョーカーは頭についた紙くずとテープを払った。
ここはメトロポリスの正義の殿堂。
言わずと知れたジャスティスリーグの本拠地である。

二人が婚約を発表してから どこに行ってもこの調子で 1日に何度も お祝いの言葉を述べられ クラッカーを発射される。 その後は大概興味本位の 相手に囲まれ 散々もみくちゃにされるのが相場だ。…ここ正義の殿堂でもそのようだ。
「………だから俺は来たくないって言ったのに。。」
拗ねた顔のジョーカーは 早速元ジャスティスリーグのメンバー (今は指導的立場に立っている)に囲まれて 質問攻めにあっている。 ちなみにブルースは 発表する前にメンバーに説明していたので みんなに囲まれて質問攻め…ということはない。
そんな訳でジョーカーは 目を輝かせた バリーや クラークたちに質問攻めにあって涙目になっている。
それをブルースは遠巻きに見ていた。
ジョーカーの目が助けてと言っているが 放っておいても問題ないと判断したブルースは知らん顔である 。

「変わったわね」
とワンダーウーマンことダイアナが話しかけてきた。
「そうだな、 随分と変わった」
ブルースはジョーカーの方を見ながら答えた 。
「彼がじゃないわ。あなたがよ」
ブルースはダイアナの方を見た
「…私が?」
怪訝な顔をしてブルースが尋ねる。
「ずいぶん変わったわ。もちろん彼もだけど 」
「…… 変わった…私が?」
そう言われて眉間にしわを寄せる。
「 ええ、そうよ。 あなたはずっと 私達といる時でさえ鎧をまとっているようだった 。ずっと張り詰めていて けれど今は違う。 やっと鎧を脱いだみたい 」
「…… 私はそんなに張り詰めていたか?」
ダイアナが優しい顔で笑う。
「ええ、とても。 私たちの前でも ずっと戦っているみたいだったわよ。 だけど今は違う。 随分と穏やかになった 」
私はそんなに張り詰めていたのだろうか?ブルースは自問自答した。
…穏やかになったか、そうかもしれないな。
もう争う必要はないのだ ということにブルースは気がついた。
…もう鎧を纏っていなくてもよいのだ。
そんなブルースを見て ダイアナは微笑んだ。

2 サプライズ!

「…セリーナのやつ この間はイメージが悪くなるから来るなとか言ってたくせに チャリティーフェスの企画しろとかどういう了見なんだよ!」
ホテルで 愚痴りながら企画書を仕上げているジョーカーの隣にブルースは座った。
「お前の得意分野だろ」
そう言うとニヤリと笑ってジョーカーはブルースを見る。
「そりゃな!なんたって俺は道化だからな」
近頃はあまり見せなくなった、何かを企んでいるような笑顔を浮かべる。

…もっとも実際企んでいるのは、ブルースたちの方なのだが。

ジョーカーは今ウェイン・エンタープライズと レックスコープと セリーナで立ち上げた 新規 NPO のための チャリティーフェスタの企画立案をしている。
ジョーカーはこういったイベントの企画などは目を輝かせてやる。 本来サプライズや楽しいことが大好きな性格 だからか、 なんだかんだと文句を言いながら それでも大喜びで企画書を仕上げていた。

翌日、ブルースとセリーナはレックスコープへと向かった。
ちなみにジョーカーはやはりレックスコープの生物工学研究室の方へ行っている。
ウェイン・エンタープライズとレックスコープで共同開発している 簡易医療用ポットの量産化 のための 製品の確認と意見交換 販売ルートの確認 性能チェック 後は単にジョーカーの興味のためだ。

ブルースたちは エレベーターまで最上階まで上がって行く。
セリーナはジョーカーが仕上げた企画書に目を通していた。
社長室に入って行き レックス ルーサーと共に企画書に目を通す。
「さすがよね!腹立たしいけど」
「ああ、斬新だな」
イベント場所の地図と企画書を見比べながらルーサーは指さした。
「やるとすればここか。道化に気づかれずに仕掛けられるかどうかが問題だな。」
「そうね。 あいつにサプライズを仕掛けるのってなかなか大変よ。 広場を派手にデコレーションしてても チャリティーイベントだからで通るでしょうけど。 勘がいいしね。 …ところでブルース?服装はどうするの ?あなたもあいつも割とフォーマルな服装が多いから タキシードを着てても普段の服装よね。 あいつなら喜んでウエディングドレスでも着そうだけど!さすがにそれじゃバレちゃうでしょうし。うーん、やっぱり無難にタキシードかしら?」
「いや、いくらなんでもウエディングドレスはおかしいだろう!」
と、ルーサーが突っ込む。
「…そうか? 」
「え?どうして? 」
当然といった態度のブルースとセリーナに ルーサーは困惑気味である。
「似合いそうなんだけどなーウエディングドレス。」
「あいつなら軽く着こなせるだろうが」
そう2人がつぶやいたのをルーサーは無視することにした。
「ところでフラワーガールとボーイはどうする?」
「それ ならば ティーンタイタンズのメンバーがやってくれる」
「じゃあ問題なしね 。介添は私がやるわ!ふふふ、楽しくなりそう」
「そうだなセリーナ頼む」
二人のやり取りを聞きながらどうしてこんなことを引き受けてしまったんだろうとレックス・ルーサーは頭を抱えた。

ひと月が経ってチャリティーフェスタの当日がやってきた。
「おいセリーナ、何だよこれ?」
いきなり小さな部屋に連れてこられ 白のタキシードに着替えさせられたジョーカーは 文句を言っている。
「いいから!はい!これ持って」
セリーナに豪華なブーケを渡され、 手を引っ張られて仕方なしについて行く。
沢山のシャッター音とカメラ、降り注ぐ花びら、広間に集まった大勢の人達、状況を理解したジョーカーは真っ赤になって慌てふためく。
黒のタキシードを着たブルースが待っている。
こうして二人の結婚式は 愛の言葉も 誓いのキスも 大々的にテレビ中継されたのだった。

3 悪夢の終焉

いやだ!いやだ!……痛い!痛い!…やめて!!
何度も何度も夢の中で殺される。
何度も何度も夢の中で生まれ そしてその度に殺される。
だから俺は夢を見るのが大嫌いだ。
きっと地獄っていうものがあるのならこんな感じなんだろうか。
……いいやこれよりはマシなはずだ。
手を伸ばし目が覚める。
全身汗でびっしょりになっている。

はぁはぁはぁ……あぁ、夢か 。

目が覚めればどんな内容だったのかぼんやりとぼやけて 思い出せなくなる。
ベッドから出ようとすれば隣にいたブルースに引き戻される。
その逞しい腕で羽交い締めにされれば もう抜け出すことはできなくなる。
彼の心臓の音が聞こえる。
ドクン…ドクン…ドクン…ドクン
…なんて心地よい。
「……Darling」
そう言うと ブルースはうっすらと目を開けた。
抱きしめられて 彼の胸に 顔を埋めて微睡んで行く。

……もう悪夢は見ない。

4 新婚旅行に行きましょう

「セリーナのやつ、生き生きしてやがるな」
テレビでセリーナ・カイルがインタビューを受けている。
ウェイン・エンタープライズとレックスコープと言う 世界1・2の企業が協賛して資金を出しているため、 立ち上げたばかりにもかかわらず 大々的な NPO 団体代表として 彼女は忙しくしていた。
レックスコープとの共同開発の事業もうまくいっていて、 ここしばらくブルースも ジョーカーも 働き詰めだった。

「明日からしばらく出かけるぞ 準備をしておけ」
唐突にそう言われ ジョーカーはまっすぐに彼を見た。
「なんだよ今度は何の取引だ。どこまで行くんだ。」
「私たちの新婚旅行だ」
そう言われジョーカーは思考停止する。
ああそうだ、何で頭から抜け落ちていたんだ?
結婚したんだから当然じゃないか。
いや待て、俺をゴッサムから出してもいいのか? 一応 精神疾患の治療中で 保護観察中じゃないのか ……すっかり忘れていたけど。
「あ…ああ。」
彼は自分でも何とも間抜けだと思う返事をして こくりと頷いた。
「お前は行きたいところがあるか」
「あー、…いや急には思いつかねーな」
「ならばとりあえず世界一周でもしてみるか」
「うん」
ジョーカーはコクコクと頷く。

……こうして二人は翌日ゴッサムを旅立った 。
その旅で世界の危機を救うことになるのだが、それはまた別のお話。


end

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