12

「なんだ今日は一人かあいつはどうした?」
そう声をかけるとジョーカーはゆっくりと振り向いた。
「よう!オジー」
すでにだいぶ前から飲んでいたのか、ほんのりと顔が赤い。

『バー:アイスバーグ』
ペンギンの系列店の中でも比較的リーズナブルな価格で飲める店である。

「ブルースならセリーナといっしょに今頃 メトロポリスだよ。 俺は置いてきぼり食らっていい子でお留守番ってわけ」
「猫と?何でまた」
「セリーナが運営してる 慈善団体が レックスコープと ウェイン・エンタープライズと 一緒に新規 NPO を立ち上げだとかで打ち合わせにいっちまった。 で、ゴッサム一の道化が来たらイメージが悪くなるから俺は留守番だってさ!」
「……ほぉ、 猫とコウモリとレックス・ルーサーね。」
『……それは、素晴らしい。善良さを微塵ほども感じさせない組み合わせだ』
オズワルドでなくともそう思っただろう。

「置いてきぼりを食らった割には楽しそうじゃねえか。なんだまた面白いジョークでも考えついたのか」
「いや、人使いの荒いブルースのせいでそれどころじゃねーよ。あいつ、俺にはどんなことやっても大丈夫と思ってるらしく めちゃくちゃに使われるんだよ」
「ほう、 その割には随分楽しそうな顔をしてるじゃねえか」
「ふふふ…、楽しいよ。 あいつ中身はいかれコウモリのまんまだぜぇ! 考えてる事がエグいエグい。 そばで見ててこんな楽しいことはない 」
「そりゃあ、何よりだ。 お前のことだからてっきり やつを裏切っておちょくることを考えているのかと思ったら…、なんだ観察して楽しんでいるだけか?」
「…あいつを裏切るねぇ~。 オジーお前だって バッツの性格知ってるだろう?あいつが人を信用するかよ! 何年 一緒にいようが どんな 親しい友人だって一切信用しないんだぜ。 俺なんか信じるわけないだろ! 信じてないやつに裏切られたって大したダメージにはならねえしよ。 大体そんなことしても面白くねえや。それよりも あいつのそばで疑り深い目でずっと俺を見て来るのを観察する方がずっと楽しい」
「つまり自分を見てほしいってことだろ。お前の惚気なんか聞きたくねえ 」

「ちぇ~、もう空か 焼酎もう一杯!!」
カウンターに向かってジョーカーはそう言った。

「大概にしておけよ。 酔いつぶれたら店から放り出すぞ!……しっつかし、 お前を置いていくなんて 疑り深いやつの性格からして 不安になったりお前が裏切ると心配したりすることはないのか? お前をこうやって野放しにしてて 平気なのはわからん! やつの性格からすれば お前をどこかに閉じ込めておくか 無理やりにでも連れて行きそうなものを」
「う~ん、さすがにそれは無理だって思ってるみたいだぜ。俺を閉じ込めたってすぐに脱走するし。いなくなりたいって思えば、 いつだって出て行っちまう。 けどそんなもったいない事しないけどな!せっかくバッツのそばにいれるんだ」
「…まあ確かに。 アーカムアサイラムから散々脱走してるしな」
「そういうこと」
「あいつって そんなにバットマンやってた時と性格変わらねえのか? ブルースウェインがバットマンだって知った時は驚いたが 。……なんとなく納得はできたな」
「変わらねーよ!腹ん中真っ黒。平気で自社で生物兵器開発はするし 市場に流さなきゃいいと思ってるのか 違法なもんホイホイ作ってやがる。 ルーサーちゃんの方がまだ善良だね。 何年も付き合ってきた ジャスティスリーグの 弱点と対処法 しっかり押さえてやがるし、…… あいつ友人だっていう意識はねーの? いつでも殺せるように 対処法考えてるってどうなんだよ? そんなやつが俺のことを信用するわけがねえだろ!」
「……兵器開発…。マジかあのコウモリ。……と言うかジョーカー 、そんな話俺に話していいのかよ」
「いいって!いいって!ペンギンは口が固いだろ」
この街で長年マフィアをやってきたペンギンは 情報がどれほど重要なものかよく知っている。 故に口が硬く 滅多なことがない限り人に漏らすことはない。
「焼酎おかわり」
「 お前そんなにグビグビ飲むもんじゃない。 口当たりはいいかもしれんがそれは相当度数が高いぞ」
「いいじゃん。 どうせブルースは セリーナと一緒に ディナーでもしてるんだろうから、今日はとことん飲む~!」
上機嫌のジョーカーの眼はトロン としている。
酔い潰れるのも時間の問題だろう。

『仕方がない 。後で部下にでも送らせるか』
オズワルドはため息をついてそう考えた。

その頃ブルース・ウェインとセリーナ・カイルは メトロポリスの 宝石店に来ていた。
「あぁ、違うのよ。 私にじゃないの。 彼が恋人にプロポーズするから その指輪を見に来たのよ」
「それは失礼いたしました。婚約指輪でしたら こちらに デザインの見本がございます」
そう言って深々と頭を下げた店員は ショーケースを開いた。
「ところでブルース。あいつの指のサイズ分かってるの?」
「いや、 私よりは細いはずだ」
「どうせそんなことだろうと思ったわ。 指輪を買いに来るのに指のサイズが分からなくてどうするのよ。いいわ、私が後で話しておくから。 あいつならそうね、どっちの色の方が好みかしら?プラチナシルバーの方が似合いそうだけど、ゴールドの方がなんとなくあいつ好みな気がするのよね!」
「それでしたら先に宝石を選んでいただいてから、似合う色合いを ご検討いただければよろしいかと存じます。」
「それもそうね、 見せていただけるかしら?」
ブルースはケースの中の宝石の一つを指差した。
「これがいい、 あいつみたいだ」
「これって確か…偏光石よね。 色が変わるところ見れるかしら?」
セリーナがそう言うと 、
「少々お待ちください 」
と言って店員はケースの明かりを調整する。
石はルビーのような赤紫色から、深い色のエメラルドへと変化していった。

宝石を選び終わり指輪をオーダーした二人は 景色のいいレストランで 食事をする。
「「乾杯 !!」」
「いよいよあなたも覚悟を決めたみたいね。……これであいつが少しでもマシになればいいんだけど。まさかと思うけど、あなたジョーカーが少しでも改心したなんて思ってないでしょうね?あいつ変わんないわよ !」
「そんなことはわかってるさ。人を殺さず 、私のそばにいてくれるそれだけで十分だ」
「そう、…ならいいけど。 今更あいつに人間らしい倫理観や 他人への思いやりなんて求めないでね 。そんなもの今更どうやったって取り戻すことできないんだから」
「分かっている。他者への共感性を保つには あまりにも彼は精神疾患が悪化しすぎている。【共感性ゼロ、痛みに無頓着、自殺傾向あり典型的なソシオパス】 だそうだ 」
「それ誰が言ったの?」
「クレイン博士だ」
「……スケアクロウね。あいつも大概じゃない。 表面上はすっかり社会復帰しておとなしくしてるけど 相変わらずいかれた思考のままじゃないの!」
「一度狂気に陥ったものが 元に戻るのは 一筋縄ではいかないな」
『あなたもだけどね。』とセリーナは心の中でつぶやいた。
「精神疾患がなくてもあいつは元々手に負えないやつだと思うけど。 ねえブルース、もしあいつが精神疾患なんかなくって ちゃんと思いやりのある 人間として育っていたら どんなやつだったと思う?」
「…セリーナ、もしかして君は ジョーカーの過去を知ってるのか?」
「まさか!あいつとは付き合いが長いけど、 いつ、どこで生まれて、どんな名前だったのかわからないわよ! あいつ自身にさえわからないのよ? 知ってるやつなんているのかしらね? あなたはどうなの?世界一の探偵さん !」
「いくつかそれらしい過去は出てきているんだが……。どれが偽名でどれが本名なのか 分からないし、 話す内容は全て虚偽だらけで、本人すら覚えていない。正直私だってお手上げだ。」
「そうよね。もうあいつの過去なんて 誰も分からないんだから。だけどね、あいつが どんな過去を持ってたとしても やっぱりあいつはジョーカーなんじゃないかと思うの」
「と言うと?」
「……あいつの性格や能力に、優しさや 他人への思いやりや正義感を加算してみてよ。どんな人間になると思う?あいつが 誰かを思いやって、不条理だ価値観に合わない、間違っていると思ったことに直面した時に、一体どういう行動を取るかしら? それまであった価値観・社会的理念を打ち壊して、 ルールも法律も何もかも無視して、 自分の周りの人間を巻き込み、デモでもストでも暴動でも起こして社会を変革してしまうでしょうね! あいつにはそれをやってしまうだけの能力がある。あなただって 分かってるでしょ。 いつも人を魅了し狂信者だらけにしてしまう。 あいつに陶酔し あいつのために命を投げ出してしまうようなバカを 大量に作り出してしまう。…正直私は彼がディランでよかった。 ジョーカーがあなただけを愛していて良かったと思うわ」
「…なんだって? ディランでよかっただって⁉」
何とも聞き捨てならない言葉である。
「そうよブルース、 だって考えてもみてよ。 もし正義感を持っていたら?もし彼が愛したのがあなたではなくゴッサムの街そのものだったら ?あるいは世界そのものだったら? 彼は人類を発展させた素晴らしい人間になったかしら?」
「…それは……もちろん 」
そう言いかけてブルースは言葉を詰まらせた。

自分が感じていた恐怖を思い出す。
人を惹きつけ、愛されて、自分のいいように 操ってしまう。
社会そのものが 彼に熱狂すれば、暴動でも何でも起こして 社会をひっくり返すことぐらい 簡単なことだ。 ほんの少し前、私はそう考えていたのだ。
そこにあるのが正義感でも正しい心でも たとえ思いやりや優しさがあったとしても 彼の能力で暴動を起こせば 社会や秩序はあっという間に崩壊してしまう 。
それをセリーナに言い当てられて二の句が出てこなくなってしまったのだ。

「私はあいつが恐ろしい。人を殺して回るからとか 狂ってるから じゃないわよ?あいつはクラッシャーよ。破壊者よ。何でもかんでも壊してしまう。その上、何もかも自分がいいように操ってみせ、手の内で作り変えてしまう 創造者でもある。…… どう言えばいいのかしら。。 そうね、…一番近い言葉 がトリックスター かしら。 うーん、やっぱりジョーカー はどんなに善人でもジョーカーよ! きっと 世界はいいようにあいつに壊され作り変えられていたでしょうね。 それは果たして 人類にとってもそれ以外の者にとっても良い事かしら?」
「善意を持ってすることならば 悪いことではないだろう」
「悪いことでない=良い事ってわけじゃないでしょ。 どのみちあいつが 正義感を持ってしても 何かをすることに 多大な犠牲が出ていたでしょうね!きっと、あいつが善人だったとしてもあなたとは対立していたと思うわよ」
ブルースはグラスを傾ける シャンパンを飲み干し テーブルに置いて彼のことを考えた。
そうかもしれないな ジョーカーが善良であったとしても 私とは対立していたかもしれない。 あいつはトリックスター か、…確かにそうかもしれない。

トリックスター
神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を展開する者である。往々にしていたずら好きとして描かれる。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、異なる二面性を持つのが特徴である。

ならば法や正義秩序の代弁者で己の正義に凝り固まったバットマンとは やはり相容れず 衝突していただろう。

彼が己の中の正義や思いやりをもって世界に対峙していたのならば 確かに今以上に深刻な事態を引き起こしていたかもしれない。そういった恐ろしさを感じるのだ。
ならば彼がバットマンのことしか見ようとしなかったのはむしろ良いことだったのかもしれない。あるいは彼が崩壊させて作り上げた世界が素晴らしいのならそちらの方が良かったのかもしれない。
……ジョーカーが選んだのはバットマンだ。
世界ではない …それで良かったのかもしれない。

彼は世界を破壊し創造する。
彼はトリックスターの神ではなく、人間であるジョーカーだ。
……ジョーカーはジョーカーだ。
きっと彼はどんな記憶を持っていても、どんな名前でもどこで生まれていてもジョーカーなのだ。
それが彼を表す最もふさわしい言葉なのだ。

「これからは対立しないであいつのことしっかり繋ぎ止めておいてよ 。じゃないと迷惑被るのはこっちなんだから」
「分かっている」
「プロポーズうまくいくといいわね」
そう言ってセリーナは笑ってみせた。

ブルースがメトロポリスから帰ってきて一週間ほどが経っていた。
バットモービルにジョーカーを押し込むと ブルースはエンジンをかけた。
「おいバッツ、どこに行くんだよ。 バッツ !」
「いいから、黙って乗れ」
空は薄曇りで今にも雨が降り出しそうな天気である。
ジョーカーは座席で身をすくめた。
心地の良い座り心地に 懐かしさを感じる。……そうだ懐かしいのだ。 最後に これに乗せられてからまだ1年とちょっとしか経っていないのに。 もう随分遠い昔のような気がする。

こっちは確か工場地帯か。
ゴッサムでも比較的治安の良くない地区だ。

モービルを停めた場所を見て ジョーカーは表情を強張らせた。
薄汚いドブ川が流れるがらんどうの空き地。
エース・ケミカルの工場跡地。
そこがジョーカーとバットマンにとって始まりの地だった。
思い出したくもない、… いや 記憶 がめちゃくちゃになってジョーカーには 思い出すことができない忌まわしい地。

まだバットマンになって間もない頃、このエース・ケミカル工場で 窃盗団と対峙し、赤いヘルメットの男『レッドフード』を追いかけた。
彼は工場内を逃げ回り 廃液タンクへと落ちていったのだった。
レッドフードは複数の人間がヘルメットを使い回していたのではないかという話もあり、 さらには 窃盗団が小規模だったこともあって詳細がつかめない。

ジョーカーがレッドフードだったというのは恐らく間違いがないだろう。ジョーカー自身がバットマンと対峙して廃液タンクへ落ちたという話をしている 。
そしてそれが彼が覚えている最も古い記憶だということも。
それより古い記憶は 切り刻まれたショートフィルムのようにめちゃくちゃになって 自分の妄想なのか真実なのか 分からないらしい。
『だから俺は現実なんかにゃ目もくれねえぜ。ご機嫌な妄想と幻覚で追っ払っちまうのさ』 そう話していた。

「バッツ ……なんで …?」
なんでここに連れてきた?
ブルースはジョーカーの手を引っ張って引きずり下ろす。 手を振り払おうとするジョーカーを無理やり引きずって行く。
「ここだな 」
そう言ってブルースは手を離した。
ポツリポツリと雨が降ってくる。
「……ああ、 確かにここだ」
虚ろにそう言ったジョーカーの目は、焦点が合っていない。
「ずっと考えていた。 あの日違った 行動をとっていれば お前との関係は 今とは全く違うものになっていただろうに。。」
ジョーカーはへたりと座り込んで地面を撫でて 今にも消え入りそうな表情を浮かべている。
「……今更それを言って何になるんだよ。 人生ってものは不公平な暴力の連続だって事さ」
「そうかもしれないな。…だが私はどうしても考えてしまう。 あの日、 お前が落ちていくのを 何故 黙って見ていたのか」
雨足は だんだんと強くなって行く。
「今更 ……もう20年も経ってるんだぜ?」
「20年間、 ずっとあの日のことを後悔していた」
「…お前、俺が善良な人間だったと思ってるんだろ? ……始めからイかれてたかもしれないぜ?」
「そうかもしれない……。だが、どちらにせよ私があの時お前の手を掴んでいれば、… きっと 未来は違った。 すまなかったと思っている。」
「もう手遅れだ。 俺だったやつはとっくに壊れちまって、残骸になってもう元には戻らねえ。 死んじまってるんだよ…20年前に。 お前がいくら俺の過去を調べたって 俺がそいつに戻ることは絶対にない。 もう無理なんだ」
雨は殴りつけるように強く降っている。
ブルースは 屈んでジョーカーの顔を覗き込んだ。
虚ろな目に涙が浮かんでいる。
「俺はお前が望んでいるようにはなれない。 善良な人間にはなれない。 もう記憶が戻ることはないだろうし、 戻っても きっと 善良にはなれない」

ブルースは ジョーカーの涙をそっと拭った。
自分がどこの誰だか分からないというのは どんなに不安だろう。 …それも20年も。
そしてその記憶が戻った時 自分自身がどうなってしまうか 分からない というのは どんな気持ちだろうか? 彼の感じている辛さがわかるというほど ブルースは傲慢な人間ではない。
彼の辛さは彼しか分からない だろう。

「ジョーカー、私は お前はお前のままでいいと思っている。 20年前に、お前の手を掴めていたら…と思うが、過去に戻ってやり直すことはできない。 お前は元々どんな名前でどんな人間だったかは分からないが、 お前の本質はそう変わらないと私は思う。 お前がどんな名前でもどんな過去でもどこで生まれ育ったとしても、きっとお前の本質はジョーカーだろうと思う」
「……俺の本質 ?」
「そうだお前の本質だ。 お前の本質は邪悪なディランではない。……セリーナが話していたよ。 お前は 不条理だ価値観に合わない、間違っていると思ったことに直面した時に、それまであった価値観・社会的理念を打ち壊し ルールも法律も何もかも無視して、 自分の周りの人間を巻き込み、暴動でも何でも起こして社会を変革してしまうトリックスターのような存在だと。 もし善良であっても きっと私とは対立していたと」
「……セリーナのやつ」
ジョーカー の顔に 一瞬呆れたような表情が浮かびすぐに消えた。
「そうか……俺は…はじめからジョーカーだったんだな」
まっすぐにブルースを見る。
「そうだ、お前は初めからジョーカーだったんだ。 たとえ本名が違う名前でも。 善良であっても。その胸に正義感を灯していても。 だからお前はお前のままでいればいいんだ」
「俺は俺のままでいい 」
ジョーカーは繰り返した。
「そうだ 」
「そうか……俺はジョーカーのままでいいんだな」
虚ろな目に灯がともり それが穏やかなものになっていく。

……「俺はジョーカーのままでいいんだな 」……

その言葉を小さく何度も繰り返している。
土砂降りの雨は少しばかり小雨になってきたようだ。

ブルースはジョーカーに何かを差し出した。
深い緑の彼の髪にも似た色の石が光っている。
「アレキサンドライトだな。……皇帝の石だ 」
「お前に似てると思ってな。当たる光で色が変わる。 気まぐれで煌びやかで、美しく人を魅了する 。」
「お前その石の由来知ってんの?皇帝に献上された石だ。俺はむしろお前らしい石だと思うがな」

骨よりも白い彼の左指にそっとはめる。
プラチナシルバーが 彼の指によく似合う。
いつのまにか雨は上がったようだ。
空に天使のはしごがかかっている 。
日の日差しが 宝石にあたり キラキラと煌めく。

「ジョーカーお前はとても自由な存在だと私は思う。法律もルールも、社会秩序も理念も、お前を縛ることはできない。 お前は気に入らないものなら何でも壊してしまう。 その上で自分の好きなものを作り、全てのものを変えていってしまう。 お前を縛り付けることはできない。 アーカムアサイラムに閉じ込めても すぐに脱走してしまうしな。 だがそれでも私はお前をつないでおきたい。自分のそばに閉じ込めてしまいたい。 物理的なものでお前を縛ることができないのなら、 お前の心に枷をつける以外他に方法がない 。この小さな枷でお前をつなぎとめておきたい 」

ブルースが口にした言葉に、ジョーカーは一瞬唖然とした顔する。
「……そんなプロポーズの言葉ってあるか」
それから穏やかな表情になり 最後は小さく笑い出した。
「お前は本当に狂ってるな !支配欲の塊だ。さすがだよ俺のイカれたコウモリの王様 !」
左手の指輪を右手でさも大切そうに包み込み、ジョーカーは笑い続けた 。
「こんな 小さな枷じゃ…俺をずっと捉えておくことはできないぜ 。そうだな精々、 …死がふたりを別つまでだ。」

「それは私たちには十分な長さだろう」
そう言ってブルースはジョーカーを抱きしめた。


end

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