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ウェインエンタープライズの社員食堂にて。

「なんだよお前ため息ばっかりついて」
「いや何 社長のところに行ったらジョーカーさんと話しててこう身振り手振りが何て言うか………すげー綺麗っていうか、どうすりゃあんな風に 優雅に振る舞えるんだろう。 ……何て言うか朝からいいもん見たって言うか。 はー…~綺麗だよなぁ。ジョーカーさん」
「なんだお前も惚れてんのか。 」
「惚れてちゃ悪いか! あんなエレガントな人いないだろ.。………いやもうどこから見ても綺麗。影だって綺麗。~~何て言うの雰囲気がある って言うのか。ともかくあの人が目に映るだけで、そこだけ映画の世界に切り替わったみたいにすげー綺麗なんだよ。……何ていうの、羽が舞ってるみたいな」
「あーわかる。わかるけどあの人のことは諦めろ。 俺らみたいなのに手が届くもんじゃねえだろ」
「んなことはわかってるよ。けどいいじゃん、思うぐらい。あー、綺麗だよな」
「だよなあ。綺麗だよな、あの人 。一緒に仕事ができる連中羨ましすぎる。…ってか、化学部門の連中が言ってたけど あの人一人で 新薬の開発しちまったらしいぜ。設計部門の連中も あの人の仕上げた 設計は 完璧だって絶賛してた いやもう天才すぎるだろ、あの人。」
「…ああ一人、馬鹿が増えた。お前らわかってんのか あのジョーカーだぞ!ゴッサム 一番のスーパーディランだぞ!!」
「そんなことわかってるよ。あんな素敵な人だったとは…、あれじゃあ社長がバットマンになって ジョーカーを救おうとしてたのが分かるよな~。 あんな人が悪堕ちしてたら正義のヒーローになって救ってやりたい!って思うよ」
「あー、わかるよなぁ。昔はディランを倒さないヒーローってどうなんだろうって思ってたけど 、救いたくなっちゃうよな~~あんな素敵な人が 悪堕ちして苦しんでたら」
「優雅で綺麗だし、知的で賢いし、エレガントで可愛らしくて華やかで。やっぱ最高だよなぁ~ジョーカー さん」
「お前ら諦めろ!高嶺の花すぎるだろ。それに社長の恋人じゃん、…多分」
「「そんな事分かってるし」」
「分かってるけど思うぐらいいいじゃん 。」
「俺この間ジョーカーさんに笑いかけてもらったぜ。」
「 何それ羨ましすぎる」
「ほんとかよ?」
「花がほころぶみたいだった。 思い出しただけで胸が高鳴る。」
「つーか、何で笑いかけてもらったんだよ。お前何かした?」
「いや管理部門に書類持ってくのに ジョーカーさんに手渡されたんだよ」
「それだけ?」
「それだけだよ」
「なんだよもっと面白い話が出てくるかと思ったのに。あの人を笑わせるみたいな」
「いやいやいや…、そんなの不可能だろ。 ゴッサム一の道化師をどうやって笑わせるってんだ って言うか、恐れ多くて話しかけられないだろ 。無理無理、絶対に無理! 恐れ多くて」
「…なんだ、恐ろしくてじゃなくって?もしかして昔から隠れファンだったりする?」
「いやあの人が ここで働くようになってからだよ 。でも隠れファンすげえ多いだろうな~。」
「わかる。今まで 怖くってファンだって言えなかった 連中が堂々と 名乗るようになってきて…知ってるだけでも相当いるもんな。あ、俺もか」
「何?隠れファンだったわけ ?」
「まあそんなとこ」

ブルースは監視カメラのモニターをオフにした。
ーー 聞くんじゃなかった。
ジョーカーを社内で働かせていることを公表し、それが社会に受け入れられるようになってから 彼にのぼせ上がるもの 恋のするもの 狂信的なファンが 山ほど増えた。
…思えば昔から 彼は自分の狂信者を手下として、犯罪を犯しその命をゴミクズのように使い捨てていた。
ゴッサム以外のものが聞けばなんとも滑稽な話である。 なぜ恐ろしい殺人鬼に 自ら殺されに行くような真似をするのか?理解はできまい。 だがゴッサムの中に入れば なぜなのかその理由は理解できよう。
その恐ろしげなアイメイクと 裂けた笑顔のような口紅と恐ろしい狂気のせいで 素顔がよくわからなくとも (メイクを落としてしまえば実際はかなり整った顔立ちである) そのよく通る声の響き 歌うように紡がれる 戯曲のような言葉、 軽やかな身のこなしに 洗練された動き、 立ち姿一つで 絵になっているのだ。
そこに鮮やかで派手な演出の劇場型犯罪。
…あまりにも恐ろしいが 、それ故にまた魅力的でもある。
その結果 彼を追いかけまわし 自分の命を捧げるほど 狂信的なバカが 湧いてくるのだから、 バットマンをしていた時はやりづらくて仕方がなかった。
常識的に考えれば彼のように他者を使い捨てるものは 部下がつくことはない。 過去のどの犯罪もプロファイリングも 犯罪心理学も 彼のようなやり方ではまずボスなど務まらない。 金払いが良いとしてもだ。 (実際ジョーカーは金に執着がなく 金銭的な支払いは良い方だったようであるが。…それどころか 必要以上にゲーム感覚で 銀行を襲い、金を奪いすぎて不要になった札束に火をつけ面白がっていることもしばしばだった )ジョーカーは部下を恐怖で支配しているわけではない。
そもそも彼に恐怖するようならば 自ら進んで部下となることはないだろう。
ただ彼に陶酔し、彼の手足となることに喜びを感じ その瞳に姿が映ることを 歓喜する。そんな異常ともとれる 狂信者ばかりが 集まってきたのだっった。ある種の宗教のように ジョーカーという神に仕え、喜ぶ狂信者。
もっともそこまで彼に魅せられていなくとも 街中に彼の隠れファンは 山のようにいたのだろうが。
……ブルースの中に黒々とした想いが広がっていく 。

……ー気に入らない 。
誰も彼も、ジョーカーに警戒心をなくし その心を許し 理想と下心を持って彼を求める。 こんな風に彼に熱狂するものが社内にいては その気になればウェイン・エンタープライズを乗っ取るのは 簡単なことだろう。
いや社会そのものが 彼に熱狂すれば 暴動でも何でも起こして 社会をひっくり返すことぐらい 簡単なことだろう。
実際、彼の性格からしてそれが面白いと思えば そんなことをやりだしかねない。……やはりジョーカーは外に出すべきではない。できることなら自分のもとに閉じ込めておいて 誰にも見せたくない。
そこまで考えてブルースは自分に嫌気がさした。
ジョーカーを閉じ込めておけるはずなどないだろうし、 人道的にも間違えている。
バットマンだった時 自分が望んでいたことと 真逆のことを望んでいることに ほとほと嫌気がさす。 更生してほしいと望み、……今まさにジョーカーは自分の望んだ通り 犯罪から手を引き 社会にてその能力を活かし更生して人々の力になっているではないか。
一体私は何が不満なんだ。
目をギラギラとギラつかせて 自分に何度もナイフを突き立ててきたジョーカーのことを思い出す。私を殺したいのか?…いや、私が死なないと思っているのか、 あまりに楽しそうに 刃物や拳銃を振り回し 私を狙ってくる。自分の命も他人の命もおもちゃにする。
彼を止めるには 暴力でねじ伏せて押さえつけるしかなかった。
そんな私を 彼は狂人だと言った。
自分と同じ狂人だと。
『違う狂っているのはお前だけだ』
と、 私は言った。
あの頃に戻りたいとは全く思わないが 今自分が望んでいることが何なのか ブルースは分からなくなっていた。
ー私が望んでいたことは、 正しい心を取り戻したジョーカーが 自分のそばにいてくれること。
そして私の望んだように 今まさに ジョーカーはほんの少しずつだが 社会の役に立ち 人間らしい心を取り戻しているのではないだろうか?それなのになぜこんなにも 心が沈んで 真っ暗な気持ちになるのだろう。

……自分でも分かっている。
これは嫉妬だ……いやそれだけじゃない。
これは恐怖だ。
ジョーカーの持つ能力に対する恐怖だ。

人を惹きつけ愛されて自分のいいように 操ってしまう。
彼が私や社会に悪意を抱いたら?
その人を引き付ける力はあっという間に恐ろしい爆弾と変かす。
テロを暴動を革命を変革を社会にもたらす。
ジョーカーが社会を良い方向に変えようとその力を使えば より良い方向に社会が変わっていく………だけでは無いかもしれない。 会社内であるいは社会で彼を愛する者が増えるほど 彼の思うように人が動いて行くだろう。
もし彼がその気になれば ?恐ろしい!

……嫉妬……恐怖。…あるいは先の見えない未来への不安。
それらがぐちゃぐちゃにブルースの中で入り混じる 。ずっと彼は ジョーカーの凶行を止めること ジョーカーを正気に戻すことに 必死だった。
正気に戻すことはまだできていないのだろうが この一年 彼の凶行を止めることは出来た。 正直に言ってしまえばなぜ彼が 自分の言うことを聞いて おとなしくしているのか 理解できずにいるが、 ……そもそも彼はどう思っているのだろう。
バットマンに、
『ダーリン愛している 』
というのはいつものことだが、彼はバットマンに何を見ていたのだろう。

扉をノックする音がする。
「どうぞ」
扉が開き入ってきたのは従業員ではない。 ハーリーン・クインゼル医師である。
「どうしてここに?」
怪訝な表情をするブルースを見て彼女は書類を手渡した。
「こんにちは、ごきげんよう。従業員の健康管理は 経営者の責任でしょう。 カウンセリングのため派遣されたの」
かつてゴッサムのディランとして、ジョーカーの相棒として 暴れ回っていた彼女 がカウンセリングというのはどうかと ブルースは内心思ったが、精神科医としての能力は 確かにお墨付きである。書類には従業員の 名前と写真のリストが書いてある。
「これは カウンセリングを受けた者たちのリストか ?」
「いいえ違うわ 。それは かつてジョーカーの部下だった 連中のリストよ」
「何? どういうことだ?」
写真と 名前の中に ブルースの見知ったものがいる。 このウェイン・エンタープライズで働いている 従業員だ。
「1年前に Mr. J が アーカムに駆け込んでから しばらくの間は 彼なしで 上層部の部下たちが 組織をまとめていたのよ。 数ヶ月ぐらい彼がいなくなることとかザラだしね。 だけど あんたが Mr. J を自分の家に連れ込んで挙句にここで働かせ始めたじゃないの。 Mr. Jが帰って来そうにないから 痺れを切らした連中が ここに就職したってわけ。もちろん Mr. Jの足を引っ張るような奴はいないから。 ちゃんとあんたにも言っとこうと思ってね 。変に誤解されても困るし。だから誤解しないでね 。ちゃんと使えるやつ選んで就職斡旋してるし。 犯罪を犯すようなマネは絶対させないから、 後で知って変に誤解を生むといけないから 前もって言っておくだけだからね。 それにMr. Jは こいつらの就職とは無関係だから 勝手に会いたくって 押しかけてきてるだけだから、 あっちこっちにいるMr. Jのファンと大して変わんないわよ。 むしろ迷惑なにわかファンよりマシなぐらい」
「…そうは言っても 犯罪者だろう」
「そうね経歴は詐称してるわよ。 でもあんたやMr. Jの迷惑をかける 犯罪に走るような奴はいないから。 そういう使えないクズは 使えないクズなりのマフィア連中に紹介して斡旋してるから心配しないで。」
『…マフィアに斡旋だと、それはそれで聞き捨てならないんだが。』
ますます難しい顔になったブルースを尻目に ドクター・クインゼルは 部屋を出て行った。

邸に帰ったブルースは最高に機嫌が悪かった。
ジョーカーを無理やり寝室に引きずって行く。
抗議の声をあげているが一切無視する。
ベッドに押し倒し 着ていたドレスシャツを無理やり引きちぎる。
ボタンが弾き飛ばされ 白い胸があらわになる。
腕をネジ上げ 背中にまわし手錠をかける。
ズボンを無理やり脱がし下着を剥ぎ取る。
真白な裸体が 目の前に晒される まるで作り物のようだがそれは確かに柔らかく熱を持っている。 男性としては 華奢すぎるが しなやかな筋肉を持った肉体 。
「バッツ… バッツ何するんだ! ちょっと待ってよ …おい!」
抗議するその口を塞ぐ、 舌をねじ込み口腔内を犯しからめ 声を奪う。
…うんっ!…はぁ…ぁ!
逃げようとするも強引に噛みつかれ 舌が絡み合う。
はぁはぁ……はぁはぁ…
呼吸の乱れる音がする 呼吸を奪われ 肺が空気を求める。 ブルースはズボンを脱いだ 男性器はすでに固くなり熱をもっている。 体を洗濯物のようにネジ上げて ジョーカーの腰を持ち上げ 背後から一気にアナルを貫く。
ひぃーーあ"ッー!!あっ…あっ…あー!!
慣らしも せずに いきなり貫かれた 痛みは 一気に体を駆け上がる 体の中に入ってくる熱量にたまりかね ジョーカーは悲鳴をあげた 濡れた血が潤滑油となり 奥へ奥へと ズブズブと 入り込んで行く ジョーカーは首を捻って抗議の目でブルースを見た その目には真っ暗な闇が浮かんでいた。
『 あぁ俺のイカれコウモリ 最高だよ!その表情 !!今日は何でそんなに荒れてるんだ』
そんなことを考えたのもつかの間、 激痛が内臓を侵食する。
うっ……ぐっ…あっ…ぁあっ///あーっ!!
腹の内側から めちゃくちゃに侵食され貫かれ、壊される、 そんな感覚が 脳を支配する。
首を後ろから押さえつけられ 呼吸が困難になり 目の前がチカチカとする。 あまりの激しいピストンについていけず 体中が悲鳴をあげている。
あっ…ぁあっ…あっ…はぁ…あぁ…バッ…ツィ…まって///ぁぁああ!!
こんな一方的な行為だというのに ジョーカーの身体は快楽を貪っていた。 痛みと苦痛は快楽に変換され 脳を麻痺させる。 ピストンはますます激しくなり 内臓は苦痛を訴えていた。
バッ…ツィ…バッツィ…はぁ……はぁあぁぁぁああ!!
快楽は絶頂を迎え ブルースの吐き出した精液を受け入れる。 体の芯がぼーっとする。腰から手を離され 終わったと思ったのも束の間 ブルースはジョーカー の腰をネジ上げて 正面を向かせた ペニスを抜かれることなく仰向けにベッドに転がされ 正面から顔を見る。

どす黒い支配欲と独占欲。
ああこれを狂気と言わずして何と呼ぼう 。
俺のいかれたコウモリの王様 。
その目に宿る闇は どんな 深淵よりも深い 。
…何てゾクゾクする!!

ブルースの下半身は再び熱を持ってジョーカーを犯し始めた。 足を押し広げ無理に開かせて 掴む腕の力はあまりに強く、太ももにあざを作る。体に何度も何度も快楽と苦痛を叩き込まれ ジョーカーは意識を手放した。

意識を取り戻して 彼が一番最初に見たのは これでもかというほど落ち込んでいるブルースの姿だった。
「…バッツィ?」
そう言うと彼がゆっくり振り向く。
「すまなかった 」
そう言って再び俯いてしまう 。
「バッツ、何かあったか? 今日はずいぶん荒れてるじゃねえか」
彼は再びジョーカーの方を見る。
「お前はバットマンのどこがいいんだ」
「どこがっていつも伝えてると思うけど。…… お前のその目に宿る狂気がだよ」
「私はお前とは違う!狂ってなんかいない」
ジョーカーは一瞬きょとんとした顔をする。
「狂っていない……狂っていないだって!!」
huhuhu...hahaha!....HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!
「こんなことをしてか? 恋人同士だってレイプは成立するんだぜ! 狂ってない奴がこんなことすると思うか?」
ブルースは再び顔を伏せてしまう。
「なんだ?…もしかして本当に分かってないのか?」
ジョーカーはさぞ愉快そうに言葉を続けた。
「お前は支配欲と独占欲 の塊だ。 社員の使い方一つでもわかる。 自分に良いように人を使い、自分の支配を押し広げ 他人を従える。 お前は生まれついての支配者だ。 独善的で人の意見などまるで聞かない。 自己の正義を他人に押し付け それ以外のものを一切認めない 。欲深く、人を信じず 疑り深く、 絶えず懐疑的で、計画的で 意志が強く、策士だ。 大好きだぜ!お前のそういう真っ暗な闇が」
ブルースは顔上げてジョーカーを見た。
「お前はさ……お前は両親が死んだから、バットマンになったんじゃない。 元々お前の本質はバットマンだからだ。 他人を支配する支配者だ。 生まれついての王の気質なんだよ。 きっと両親の死なんてなくったって お前はバットマンになっていた」
ブルースはジョーカーの首筋に触れた。 押さえつけた後があざになっている。
「…私の本質は支配者か。 確かにそうかもしれない お前を支配したいと思っている」
「もう支配してるじゃねえか」
ブルースは目を伏せる。 そして再び開きジョーカーを見据えた。
「お前を閉じ込めて、誰の目にもつかないようにして、 一切の自由を奪ってしまいたい。 そうすれば お前にのぼせ上がって 恋をする者も 熱狂的な ファンも 狂信者もいなくなるのに。 お前が外を歩くほど テレビに出たり 話題に上がるたびに お前に惹かれるものが 増えていく。…… お前が犯罪をやめ社会に貢献してくれることを望んでいたのに。 お前に惹かれるものが増えるたびに ひたすら苦しくなってしまう」
ジョーカーは さも愛しそうにブルースの手を握り締めた 。
「嬉しいね!俺のために嫉妬か。 心配しなくても 俺は王のための道化だぜ。 元からお前のためだけのものだ。 コウモリの王様」
そう言ってブルースに 腕をからめ 口付けを捧げた。


end

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